作成日:2022/02/07
行方不明の社員を解雇することができるか【解説】
最近、このようなお問い合わせを連続でうけました。
アルバイトを雇っている飲食店で多く聞かれますが、業種を問わず、突然来なくなる社員はいます。
よく聞く質問はこんな感じです。
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社員が無断欠勤が数日続き、連絡が取れません。行方不明なのですが、退職扱いあるいは解雇することはできますか。
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自社の就業規則あるいは労働条件通知書(雇用契約書)には、無断欠勤について、何か規定はあるでしょうか。確認してみてください。
無断欠勤についての取り扱い規定がない場合には、退職扱いとすることも、解雇することもできません。
まず、長期間の無断欠勤は、普通解雇事由及び懲戒解雇事由に該当するのが通常でしょう。このようなことが就業規則に記載があると思います。
そして、行方不明のため長期の欠勤が続いている場合には、解雇を通知することができれば、解雇は有効と判断される可能性が高いです。
しかし、いくら捜しても社員が行方不明の場合は、どこ宛に解雇通知書を発送すればいいのかといった解雇を通知する方法が問題となります。
解雇の意思表示は、解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じます。(民法97条1項)解雇が有効か無効か以前の問題として、解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の効力を生じる余地はありません。
社員が自宅で生活しており、単に出社を拒否しているに過ぎないような事案であれば,社員の自宅に解雇通知が届けば、社員の支配権内に置かれたことになります。
なので、実際に社員が解雇通知を読んでいなくても、解雇の意思表示が到達したことになります。
ところが、会社が把握している自宅が引き払われているなど、本当の意味での行方不明でどこに住んでいるのか皆目見当がつかない場合は、解雇通知を発送すべき宛先が分かりません。
会社が把握している社員の自宅が引き払われてはいなくても、長期間にわたり社員が自宅に戻っている形跡が全くないような場合は、社員の自宅に解雇通知が到達したとしても社員の支配権内に置かれたと評価することはできませ。したがって解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。
なお、電子メールによる解雇通知は、行方不明の社員からの返信があれば、通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し、解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。
ただし,電子メールに返信があるような事案の場合、そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地があります。その場合、解雇権を濫用したものとして無効(労契法16条)とされないよう、解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。
他方、行方不明の社員からメール返信がない場合は、解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが、連絡を取る努力を尽くした上で、リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
行方不明の社員の家族や身元保証人に対し、行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても、解雇の意思表示が到達したとは評価することができず、解雇の効力は生じないのが原則です。
完全に行方不明の社員に対し,解雇を通知する場合は,簡易裁判所において公示による意思表示(民法98条)の手続を取る必要があります。
公示による意思表示の要件を満たせば,解雇の意思表示が行方不明の社員に到達したものとみなしてもらうことができます。
次に、「退職扱い」とすることはどうでしょうか。
自己都合退職は、本人が退職の意思表示をすることで、成立します。
無断欠勤で連絡が取れない場合には、本人から勤務を継続するのか、退職したいのか、本人の意思が確認できません。
連絡が取れずに行方不明となったからと言って、勝手に自己都合退職の扱いをすることはでいません。
冒頭でお伝えしたように、就業規則や労働条件通知書に、無断欠勤・行方不明の時の取り扱いが書かれていないときは、法的には、退職とすることも、解雇することもできないということになります。
このようなことにも対応できるよう、就業規則や雇用条件通知書に「無断欠勤が〇日続き、連絡が取れないときは、自己都合退職とする」といった取り決め(条文)を規定することで、退職扱いとすることも可能となります。
自社の就業規則や雇用条件通知書を点検して、トラブルとならないように気を付けてください。